『家なき子』の原典と初期邦訳の文化社会史的研究
エクトール・マロ、五来素川、菊池幽芳をめぐって
定価:
14,300
円(本体
13,000
円+税)
- 目次を表示します。
-
凡例
序論
第一部 Hector Malot, Sans famille(1878)──原典成立の背景と意義
序章
第一章 伝記的事実とSans famille成立の背景
1-1 伝記的事実──1878年までを中心に
1-1-1 エクトール・マロが受けた教育の特徴と政治的目覚め
1-1-2 思想・表現の自由についての戦い
1-1-3 ジャーナリストとしての活動──共和主義、社会主義との接近
1-1-4 普仏戦争の経験
1-1-5 Sans famille執筆時代のマロの思想的傾向
1-2 Sans famille成立の背景と経緯
1-2-1 ピエール=ジュール・エッツェルからの依頼と『教育娯楽雑誌』
1-2-2 エッツェルとの決裂と二つの版の誕生
1-3 まとめ
第二章 Sans familleと共和国
2-1 第三共和政初期の初等教育改革とSans famille
2-2 Sans famille における教科教育
2-2-1 バロデ案とバルニ案における初等教育の内容
2-2-2 Sans familleにおける教科教育
①読み方・書き方
②計算(数学の基礎)
③地理歴史・とくにフランスの地理歴史
④自然科学(物理学、博物学)
⑤体育
⑥男子に軍事教練・女子に裁縫
⑦図画および音楽(線画、唱歌)
⑧法律上の常識および経済
⑨現用語(外国語)の活用
⑩産業に関する実践的な知識・職業教育
⑪実物教育
2-3 Sans familleにおける自然科学教育と宗教的信仰
2-4 Sans familleにおける公民道徳教育
2-4-1 「共和国の小学校」における公民道徳教育
2-4-2 家族の重視
①家族の存在意義──神に代わる家族
②家族の道徳的機能──道徳的守護者としての家族
③家族に対する道徳──友情と愛情の源としての家族
2-4-3 法的規範の遵守
2-4-4 社会規範の遵守
①1887年の学習指導要領との比較・照合
②家族における女性の役割の重視
2-5 まとめ
第三章 Sans familleにおける社会批判
3-1 Sans familleで提示された教育問題
3-1-1 対独復讐の視点の回避──国家主義の否定
3-1-2 Sans familleにおける学校教育批判──「独学者」の表象を中心に
3-2 Sans familleにおける「社会問題」への言及
3-2-1 Sans familleにおける「社会問題」に関する先行研究
3-2-2 エクトール・マロの「社会問題」に対する関心──1860年代を中心に
3-2-3 Sans familleにおける「社会問題」と家族
①「社会問題」による家族崩壊の危惧
②「社会問題」の解決の鍵となる家族──「友愛」の源として
3-2-4 Sans familleにおける浮浪者への視線
3-3 児童の権利についての問題提起
3-3-1 先行研究と本節の視座
3-3-2 第三共和政初期における児童保護政策
3-3-3 Sans familleにおける父権批判
3-3-4 Sans familleにおける児童保護事業
3-4 まとめ
第一部 結論
第二部 明治時代後期の日本におけるSans familleの翻訳受容
序章
第一章 五来素川訳 『家庭小説 未だ見ぬ親』(1903年)
1-1 『未だ見ぬ親』に関する基本的事項
1-1-1 Sans familleが日本に紹介された経緯
1-1-2 翻訳・翻案に際して使用された原書の版について
1-2 「家庭小説」としての『未だ見ぬ親』
1-2-1 「家庭小説」の特徴
1-2-2 五来素川の小説観と『未だ見ぬ親』
1-3 親子道徳を説く物語としての『未だ見ぬ親』
1-3-1 五来素川の家族観──「家族主義」から「個人主義」へ
1-3-2 Sans familleと『未だ見ぬ親』──章の構成の比較
1-4 原作に見出された価値──個人主義に基づく親子関係
1-4-1 個人主義に基づく教育
1-4-2 親子間の情愛
1-5 作品の日本化
1-5-1 教え導かれる子ども──Sans familleにおける児童教育に対する限定的な理解
1-5-2 親の恩を感じる主人公──報恩の観念の付加
1-6 まとめ
第二章 菊池幽芳訳『家なき児』(1912年)
2-1 『家なき児』についての基本的事項
2-1-1 菊池幽芳の経歴
2-1-2 菊池幽芳のフランス語能力および翻訳の底本について
2-1-3 菊池幽芳の翻訳態度およびSans familleに対する評価
2-2 菊池幽芳の文学観
2-2-1 「家庭小説」の作家としての菊池幽芳──明治30年代を中心に
①『己が罪』(1899年)──小説を通した「家庭」の啓蒙
②『乳姉妹』(1903年)──女性への焦点化、「家庭小説」の通俗化
2-2-2 明治末年の問題意識
①「新しい女」に対する危惧
②若者の「堕落」と小説
③欧米文化の悪影響
2-3 見出されたSans familleの価値と『家なき児』
2-3-1 「家庭小説」としての受容
2-3-2 物語の面白さ──メロドラマとサスペンス
2-3-3 「家庭小説」としての道徳
2-4 『家なき児』における女性像
2-4-1 賢母であることを強調する改変
2-4-2 娘の献身
2-4-3 「家庭」を疎かにする女性、結婚しない女性
2-5 女性以外の読者への意識:児童と男性
2-5-1 児童文学としての評価、翻訳の際の配慮
2-5-2 成人男性も読める小説として
2-6 まとめ
第二部 結論
結論
あとがき
初出誌一覧
参考文献
付録1 ダンテュ版とエッツェル版の主要なヴァリアント
付録2 バルニ案、バロデ案、ベール案、フェリー法における教科教育規定
付録3 初等科中級課程「道徳」科の学習指導要領規定とSans familleの記述の照応