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近代教育黎明期における健康教育の研究

教育と医学の融合による健康教育の始まり

定価: 13,200 (本体 12,000 円+税)
保健教育の創始といえる、1872年「学制」の「養生法」設置の背景と根拠について検証し、近代学校草創期の子どもの〈身体・健康〉教育全容の解明に迫る。

【著者略歴】
田口喜久恵(たぐち きくえ)
1949年 島根県に生まれる
1972年 東京教育大学卒業
1984年 静岡大学大学院教育学研究科修了
1984年 筑波大学大学院体育学研究科研究員
1986年 国立教育研究所共同研究員
2007年 日本女子大学大学院人間社会研究科博士課程後期入学
2009年 日本女子大学大学院人間社会研究科博士課程後期退学
現在 富士常葉大学准教授、博士(教育学)
目次を表示します。
序章 問題の所在と課題
 第1節 わが国最初の保健教科
  1.1872(明治5)年「学制」の「養生法」への研究視点の欠如
  2.問題の所在
 第2節 課題と論文構成
  1.課題の設定
  2.論文の構成
  3.使用用語について
第Ⅰ章 「学制」以前の医学教育
 第1節 文部省設置以前の医学教育の系譜
  1.伝統的漢方医学の中で弾圧されつづけた西洋医学
   1)実証医学の幕開け『蔵志』と『解体新書』
   2)シーボルトの鳴滝塾と再禁止となった西洋医学
   3)西洋医学禁止令の解除
    ①蘭方医の奥医師採用
    ②幕府公認の西洋医学教育―医学所における本格的西洋医学教育―
  2.まとめ
 第2節 文部省の設置と医学関係者
  1.洋学学習を先駆した医学教育―医学所の復興から大学東校の開校へ―
  2.文部省の設置―新しい教育制度の着手―
   1)文部省と編纂寮の構成員
   2)教科書松本良順『養生法』と『健全学』の選定
  3.まとめ
 第3節 近代医学導入の主導者松本良順―近代衛生学の始まりと『養生法』の意図―
  1.松本良順と西洋医学の出会い
   1)良順の経歴と西洋医学習得への熱意
   2)ポンペの医学伝習―初めての体系的西洋医学教育―
    ①長崎の医学伝習までの道
    ②体系的西洋医学教育の開始
    ③長崎「伝習所」での医学教育実践
    ④ポンペ・良順の医学伝習の評価
  2.松本良順の西洋医学教育定着への意志
   1)医学所の改革
   2)良順の門弟たち
  3.まとめ
 第4節 『養生法』に込められた近代衛生学開明の意図
  1.日本人の著した最初の西洋衛生書
   1)『養生法』の幕末養生書における位置と評価
   2)一般庶民の登場―良順の万人のための医療思想―
   3)貝原益軒の養生観の否定―近世的養生観からの決別―
  2.西洋衛生学の実際―近代的衛生観―
   1)環境衛生として把握された住居環境
    ①住居
    ②厠及び屎尿の処理
   2)近代的個人衛生
    ①衣服
    ②飲食
    ③煙草
    ④浴場・睡眠
   3)公衆衛生―房事と梅毒検査―
   4)病気の抵抗力と捉えた運動―運動を実動と虚動に峻別―
  3.まとめ
第Ⅱ章 近代学校教育における近代的「養生法」の導入
 第1節 「学制」第27章「養生法」について
  1.「養生法」の位置付け
   1)保健教育の変遷
   2)「養生法」及び「体術」の設置の経過
    ①教科設置の推移―一貫して存在した「養生法」―
    ②師範学校教則における養生教育と体操
    ③「体術」「体操」の設置経過とその内容―「医療体操」からはじまった体操―
   3)米国学則に存在した「健康術」
   4)伝統的「養生論」の存在
  2.まとめ
 第2節 「養生法」設置の背景と経緯
  1.歴史的転換の中で教育が指向したもの―徹底を期した西洋教育導入―
  2.歴史的転換の中で求められた人間観・身体観
   1)「学制布告書」にみる人間観―功利的身体観の存在―
   2)「修身書」にみる身体観
   3)「生徒心得」にみる人間観
  3.文部省・学生取調掛の「養生」教育に対する認識
   1)文部省当局の「養生」教育に対する認識
   2)学生取調掛の「養生」教育に対する認識
   3)西潟訥の「養生法」設置の説明
  4.学生取調掛の2名の西洋医学者の存在―近代医学確立の使命を担った岩佐と長谷川―
  5.まとめ
第Ⅲ章 近代学校草創期における「養生教育」の実際―府県教則および養生教科書について―
 第1節 近代学校草創期各府県教則に示された「養生教育」
  1.学制期全国府県教則中の「養生教育」
   1)第1期の各府県教則中の「養生教育」
   2)第2期の各府県教則中の「養生教育」
   3)第3期の各府県教則中の「養生教育」
  2.官立師範学校教則の独自性
  3.学制後期と教育令期の「養生教育」―自由教育推進と「養生教育」の充実―
  4.まとめ
 第2節 近代的養生教科書による「養生教育」
  1.「人体問答」による養生教育
   1)師範学校教則に出現した庶物指教としての「人体ノ部分問答」
    ①「人体問答」教科書の刊行数とその特徴
    ②「人体問答」教科書にみる趣旨と教授法
    ③凡例,緒言にみる「人体問答」教育の趣旨と教授法
    ④「人体問答」教科書の内容
  2.近代教育草創期の養生教科書
   1)養生教科書の出版状況と種類
   2)養生教科書の特徴
    ①初期に刊行された養生教科書の特徴―「養生法」の教科書として刊行された『啓蒙養生訓―
    ②初学用に刊行さらた養生教科書
    ③「口授」「養生談」の教科書
    ④もっとも多く翻訳されたカットルの生理衛生書
   3)他の教科書にみる養生教育内容
  3.まとめ
第Ⅳ章 <身体・健康>教育の展開基盤―「養生法」以外の<身体・健康>
 第1節 田中義廉編『小学読本』による<身体・健康>教育
  1.『小学読本』とウィルソン・リーダー
   1)田中義廉編『小学読本』の養生内容と先行研究
   2)ウィルソン・リーダーについて
    ①ウィルソン・リーダーの採用経緯
    ②ウィルソン・リーダーの内容構成
    ③ウィルソン・リーダーと『小学読本』との対応箇所
  2.『小学読本』とウィルソン・リーダーとの対照分析
   1)『小学読本』中の健康内容分析
    ①『小学読本』の文章構成法の確定
    ②『小学読本』の内容対照分析
   2)近代的発育発達観の受容
    ①「子どもの発育発達」への医学的接近
    ②福沢諭吉の「学校」と「遊園」の紹介
    ③医学と教育の接近
   3)『小学読本』巻之五の健康内容とウィルソン・リーダーとの対応箇所
  3.田中義廉の近代的教科書創りの意図・方法
   1)田中義廉の訳述編集方法の分析―日本的な教科書創りへの工夫―
   2)『小学読本』による新教育理念の提示―オリジナル課の配置と内容―
   3)田中義廉の抽出した「身体の教育」―「The Play-Ground」の着目と最初の選択―
   4)田中義廉の医学者としての視点
    ①田中義廉の経歴
    ②田中義廉の教科書出版
  4.まとめ
 第2節 「文部省刊行雑誌」に掲載された<身体・健康>教育記事
  1.「文部省刊行雑誌」について
   1)「文部省刊行雑誌」の刊行意図とその変遷
   2)『文部省報告』第23号の「教育及衛生」について
  2.<身体・健康>記事分類
   1)<身体・健康>記事分類と先行研究
   2)佐藤及び今村の<身体・健康>記事比較
    ①佐藤秀夫の<身体・健康>記事数
    ②今村嘉雄の調査と先行研究との検討
  3.<身体・健康>記事内容の検討
   1)<身体・健康>に関する特徴的記事
    ①最初の教育記事「生徒養生ノ法」及び学校建築関連記事
    ②自然教育法による<身体・健康>教育の紹介
    ③学校教育に潜む健康被害への警鐘と対策
    ④健康養生体操
    ⑤「学校衛生」記事の初出
    ⑥その他の記事
  4.まとめ
 第3節 開成学校における近代的<身体・健康>教育・管理実践
  1.フルベッキと<身体・健康>教育・管理実践
   1)フルベッキの南校教頭就任と,EZの<身体・健康>教育・管理実践
    ①フルベッキと長崎の医学伝習との関係
    ②フルベッキの「建議書」にみる<身体・健康>観
  2.「生徒養生ノ法」の近代性とその出典について
   1)「生徒養生ノ法」の出典をめぐって
    ①松本良順『養生法』との関連
    ②杉田玄端訳『健全学』との関連
    ③辻恕介抄訳『扶氏長生法』との関連
    ④緒方惟準編輯『衛生新論』との関連
    ⑤鈴木良輔訳『養生新編』との関連
    ⑥土岐頼徳纂輯『啓蒙養生訓』との関連
    ⑦松本良順の影響力―良順の記述手法と「生徒養生ノ法」―
  3.大学南校から東京開成学校の規則にみる<身体・健康>教育・管理実践
   1)「生徒心得」「舎則」にみる<身体・健康>関連規則―医局・医官と病舎の存在―
   2)正課授業における「体操」実施―近代学校の象徴としての「体操」―
  4.まとめ
終章 近代教育草創期の<身体・健康>教育の存在
 第1節 「学制」第27章「養生法」設置を可能とした背景
  1.近代医学導入と松本良順の存在
   1)医学者の子どもの<身体・健康>教育への関与
   2)松本良順『養生法』の意義
 第2節 近代教育思潮と子どもの<身体・健康>教育―近代の教育と医学の融合による健康教育の誕生―
  1.ペスタロッチの調和的人間感性論に基づく「身体の教育」
   1)文部省の意図以上の養生教育の広がり
   2)田中義廉編『小学読本』による近代教育概念の提示
   3)「文部省刊行雑誌」にみる<身体・健康>教育
   4)健康形成を主眼とした「身体の教育」
  2.まとめ
 第3節 近代教育草創期の養生(保健)教育の存在
 第4節 今後の課題
  子どもの<身体・健康>教育の変質
 おわりに
主要参考文献
資料
あとがき
著者田口喜久恵 著
発行年月日2010年11月30日
頁数450頁
判型 A5
ISBNコード978-4-7599-1829-8